クローン病とは、症状と診断基準

クローン病という名前の、治療の難しい病気があります。クローン病は、英語名ではCrohn's disease、CDと言いますが、これまで原因不明とされてきた病気で、日本では特定疾患治療研究事業の対象となっている病気です。
腹痛、下痢をある期間をおいて繰り返す人は注意してみて下さい。
クローン病は、口腔から始まって肛門に至る長い消化管全域のどこかに、慢性的な炎症や潰瘍を起こし、完治させることがことが困難な難病の一つとなっています。原因は不明ですが、症状を引き起こすシステムは解明されつつあります。クローン病は1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン先生らによって初めて報告された病気で、これまで日本では珍しい病気でしたが、近年日本でも患者数が増加傾向にあり、厚生労働省特定疾患医療受給者証所持者数によると、1976年の128人から2006年現在では26,000人と報告されています。それでも欧米に比べると10分の1前後です。10代20代で発症する点に特徴があります。
発症年齢は男性で20代前半、女性で10代後半に多くみられます。男性対女性では、約2:1と男性が多くなっています。
地域的には北米やヨーロッパの先進国に多く見られるので、環境因子、食生活の影響、動物性タンパク質や脂肪を多く摂取し、生活水準が高いほどクローン病にかかりやすい傾向にあるといえます。
クローン病は消化器官に見られる炎症や潰瘍ですので、はじめに消化器と消化器官についてみておきます。消化器の役割は、食物を取り込み、消化し、栄養分を吸収し、不要分を排泄することです。消化器官は、食物や水分の通り道となる部分で、食物を取り込むための口(口腔)から始まって、のど(咽頭)、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)大腸、肛門に至るまでのことを指し、約6m長さです。このほか栄養素を貯蔵・加工する肝臓なども消化器官に含まれます。
クローン病の症状で特徴的なものは腹痛と下痢です。腹痛と下痢は半数以上の患者さんで見られるのですが、クローン病の症状は腹痛、下痢以外にも、消化器官のどこで発症するかによってさまざまな様相を見せます。部位別では小腸型、大腸型、両方をもった小腸・大腸型などにより違いが見られ、多いのは小腸・大腸型です。多く見られるのは小腸の末端部分で、病変が非連続性である点に特徴があります。非連続性というのは、病変と病変の間に正常部分が存在することをいいます。。病変タイプ別で分類する、「狭窄型」と「穿孔型」では穿孔型が重症の例が多く、症状は重症の場合と軽症の場合とでは大きく違います。炎症は激しい時期と落ち着いている時期があり、炎症が激しい活動期では症状も激しく、炎症の落ち着いた緩解期(寛解期)では症状も落ち着きます。緩解期にあっても、病変した狭窄、穿孔、瘻孔は落ち着いているだけで症状が無くなるのではありません。
腹痛と下痢のほかに、発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状が現れることも珍しくありません。さらに膿瘍などの腸管の合併症や関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門部病変などの腸管外の合併症も多く見られるため、症状もさまざまなかたちで現れることになります。
症状のうち腹痛と下痢についてみてみましょう。
初期の自覚症状として、腹痛などおなかと肛門に対する異変があります。クローン病では前述のとおり、小腸の末端から大腸にかけての炎症が多く、肛門からの出血の場合の血の色は赤い色です。腹痛と下痢は普段の日常生活でも見られることがありますが、それだけに安易に考えやすいともいえます。腹痛や下痢を繰り返す場合は、活動期と緩解期(寛解期)の繰り返しに入っている場合を疑いましょう。腹痛や下痢を繰り返していると、腸管が狭くなる「狭窄」へ進み、さらに進行すると、便が先へ進まなくなり「瘻孔」という別の通り道ができるようになります。この場合はすぐに消化器内科への受診が必要です。クローン病は痔ろうや裂肛から判明することもあるのです。
診断は難しく、症状にこれまでのところ特異的な所見が無いとされるため、現状では消去法で行われています。
腹痛と下痢を繰り返している場合や肛門部に病変がある場合、クローン病を疑うのですが、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、腸結核などとの区別が大切になります。問診で症状の確認から始まり、便培養検査などで他の病気との識別に入ります。大腸内視鏡検査、X線検査では大腸、小腸の炎症、潰瘍の有無、程度を調べます。X線造影検査(注腸造影、小腸造影)、大腸内視鏡検査といった検査は消化管の病変発見に有効な検査です。腸管狭窄などによる発熱などがある場合はCT検査、MRI検査で狭窄などの状態を見ます。

クローン病の治療、食事療法と薬、レミケード、エレンタール

クローン病の治療には、内科的療法としての薬物療法、栄養療法(食事療法)、また外科的治療法としての手術があり、症状に応じて適切な方法がとられます。
クローン病は特定疾患ですので、現在のところ完治させることが難しいため、活動期を短くし緩解期の状態を長く保つことが中心となります。薬物療法は欧米では主体となっていますが、日本では薬物療法と栄養療法の組み合わせで行われています。
活動期における治療は、薬物療法も栄養療法(食事療法)も利用され、緩解期における中心的な治療法は薬物療法となります。外科的療法がとられるのは、症状に腸管狭窄や瘻孔が見られる場合です。腸管狭窄や瘻孔などがない場合は、活動期を短くし緩解期を維持するための治療になります。このように腸管の炎症を抑えることによって症状を緩和することが主目的となるので、内科的治療の栄養療法(食事療法)や薬物療法が選択されるため、患者側の理解と、治療への協力が欠かせません。
栄養療法、食事療法について。
栄養療法は主に活動期にとられます。腸管の安静と食事からの異物を取り除くことを目的とし、この結果、腹痛や下痢などの症状を改善させ、消化管病変を改善させます。
活動期は、成分栄養剤だけの摂取。緩解期へ入ってきたら通常の食事を増やしてゆきます。成分栄養剤とは、タンパク質を少なくし、アミノ酸を多くした低脂肪の栄養剤です。タンパク質は炎症の原因となりやすいため減らされます。摂取方法も活動期には下痢を避けるため、口からではなく鼻からチューブで胃や腸へゆっくり流します。
緩解期の食事療法では通常の食事がとれますが、食事内容は、腸への負担を少なくする工夫をします。適量の良質のたんぱく質をとり、刺激物や脂肪分の摂取はできるだけ控えるようにします。発症部位や個々の吸収能力などに差があるため、クローン病の患者さんそれぞれにあった食品を探し、それぞれに合ったレシピを作成してゆくことが大切な作業になります。主治医や栄養士との相談が欠かせません。クローン病の治療における食事制限は厳しいものがありますが、副作用がなく症状の改善にも有効であるため、症状の変化を見ながら、絶食のレベルから制限を緩めるレベルまで応変の処置がとられます。
エレンタールという製品は、窒素源(たんぱく質)がアミノ酸で、脂肪が最小限に抑えられている特徴があるため、クローン病に適した成分栄養剤として、厚生労働省難病研究班のクローン病治療指針の中に基準薬として掲載されています。このほかにもクローン病在宅経管栄養の対象医薬品も増えてきています。
薬物療法について。
クローン病に使われる薬物には次のようなものがあり、炎症を抑えたり、炎症を防ぐために使われます。薬の使用は副作用が起ころことがあるため、経過的な診断と体調の変化に気をつけて医師への連絡が大切となります。
5-ASA製剤、5-アミノサリチル酸製剤・・・薬物療法の基準となっている薬で、炎症を抑えて緩解期の維持を目的とします。5-ASA製剤メサラジンの錠剤は、成分の放出が持続するように製剤されているので消化器官の上部から下部の広い範囲に効果があります。
抗菌薬・・・腸管内の細菌に作用させ、症状の進行を抑えます。
副腎皮質ステロイド・・・5-ASA製剤や抗菌薬の効果が見られない場合に使われる薬で、効力の強い薬です。
免疫抑制剤・・・緩解期の状態を維持する目的で使われ、過剰な免疫反応を抑えます。
抗TNF-α抗体製剤・・・2002年に認可された薬で、2007年からは緩解期の状態を維持する目的でも使えるようになっています。抗TNF-α抗体製剤は、TNF-α抗体というクローン病の症状にかかわる免疫物質を抑える力があり、他の薬で効果が見られない場合でも顕著な改善効果があり、粘膜を健康な状態へ戻す効果も見られます。
インフリキシマブ(レミケード)・・・免疫抑制剤に近い薬(TNF-α阻害剤)です。狭窄や内瘻や膿瘍以外のほとんどに利用でき、高い効果が見られますが、副作用に注意する必要があります。
外科的治療について。
クローン病においては、外科的治療は基本的には行われず、手術という治療方法がとられるのは、内科的治療でコントロールできない場合です。腸管の著しい狭窄がある場合、穿孔、瘻孔、膿瘍などがある場合などが手術の対象となるのですが、手術の場合で切除は最小範囲に抑えられ、狭窄形成術などが行われます。短腸症候群を避けたり、術後の経過に注意が払われますが、再接合部での再発率が高いものです。

クローン病の生活上の注意、ストレス、食事療法

クローン病はこのように活動期と緩解期(寛解期)を繰り返す、慢性の経過をたどる病気で、完治することが困難な難病ですが、緩解期には普通の日常生活を送ることができるので、研究の進展を待ちながら緩解期の状態を長く維持する努力が大切です。
長い経過の間で手術が必要とされる場合の確率は、発症後5年で33.3%、10年で70.8%と報告されています。痔瘻癌や大腸がんを合併症として起こす事もまれに見られます。しかし、一般的にクローン病と診断されても、生命にかかわることはほとんどなく、現在では薬の開発などもあり、症状を感じさせない緩解期を長く維持する患者さんも増えてきています。緩解期には食事も普通通りにとり、仕事もできますので管理をきちんとしながら、病気を気にしないで気持ちを楽に保つよう心がけるとよいです。
クローン病の症状が落ち着いている緩解期が長くなっても、処方された薬の服用を中断したり、定期的な健診を受けることをやめたりすることがないよう注意します。病気の活動開始が早まったり病状の悪化ということもあるので、処方薬の服用を忘れたり、活動期に入ったと思われる場合には早期の治療が大切です。
難病の一つではありますが、日常生活の注意と定期的な検査で、緩解期を長く維持する工夫をしましょう。日常生活を送る上で注意することをまとめてみましょう。
クローン病は消化器系の病気ですから消化器系への刺激が良くありません。たばこは、下痢を誘発しやすいので禁煙です。
ストレスは、腸を過敏にしてしまいますので、ストレスにしない心の持ちようを工夫したり、ストレスを受けやすい環境から離れる工夫も考えましょう。緩解期の気持ちの持ち方は大切で、普段通りの生活が腸への刺激を少なくします。
食事療法の一環として、緩解期の食事で積極的にとった方が良いものと、できるだけ控え目にするものをあげてみます。緩解期の食事は通常の食事がとれますが、痔の予防や悪化などへの気配りも考えて下さい。自分の炎症部位や症状に応じて、自分なりのレシピを工夫してみましょう。
食事療法、積極的にとった方が良いとされる食物類。
腸への負担を少なくする工夫が必要なことから、良質のたんぱく質を適量とることが中心になります。大豆製品、白身魚、青魚が良く、豆腐、いわしな、さんま、さばなどはおすすめです。肉類など脂肪分の多い食品は避けなければなりませんが、肉類の中でも脂肪の少ないもの、鶏のささ身やモモ肉、ヒレ肉などなら選んでも良いでしょう。
食事療法、控えなくてはいけない食品。
脂肪分の摂取がいけないのは消化不良を起こしやすいためです。肉類のうち脂身やバター、卵黄などです。また、腸を刺激するものも良くありません。香辛料、アルコールは避けます。コーヒーや炭酸飲料なども控えた方がよいでしょう。熱すぎるもの。冷たすぎるものも腸への刺激が強くなります。
クローン病と診断されてもひとかどの仕事を成し遂げている人たちを紹介します。
リリ・ブーランジェ。(1893.8.21〜1918.3.15)
フランスの作曲家で語学力にもすぐれ、ピアノ、バイオリン、チェロ、ハープの楽器演奏においては幼少時から初見演奏の能力に天才的な才能を見せたことで知られています。24歳の短命でしたが、ローマ賞大賞を受賞しています。日本の作曲家、林光の娘でフルート奏者の林リリ子の名は、リリ・ブーランジェにちなんでいます。
ニッキー・ホプキンス(1944.2.24〜1994.9.6)
イギリスのセッションミュージシャン、ピアニスト。
1960年代初頭のデビュー当時から人気プレーヤーでしたが、クローン病で苦しみました。体調の良い時はツアーにも参加し、1971〜3年はローリングストーンのツアーにも参加しています。しかし主な活動の場はスタジオ中心となり、レイ・コールマンとともに自叙伝を執筆中、腸の手術後に生じた合併症により亡くなりました。
マイケル・レポンド。(1966.2.17〜)
アメリカのロックミュージシャンで、ロックバンド、シンフォニーXのベーシスト。2006年5月10日にクローン病を患っていることを発表。シンフォニーXはこの後6月予定の出演を2つキャンセルことになりました。その後2ヶ月ほどで回復しましたが、今後の活動が心配されています。
永滝芳行(1948.12.19〜)日本の公営競技、競艇の選手で2007年に引退していますが、競技選手として肉体的・精神的に厳しい仕事を続け、58歳まで一線で活躍しました。

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